北岡(ゾルダ)という浅倉も惚れた男-仮面ライダー龍騎

映像作品
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※この記事はネタバレを含みます。

仮面ライダー龍騎の特徴の1つは、13人+2人(疑似ライダー)=15人のライダーが登場することです。全ての仮面ライダーは普通の人間としての生活を持ち、家族がおり、職業があり、日常があります。

日常生活に当たり前にいる人間が実はライダーであり、ライダー同士は誰がライダーなのか探りながら戦う相手を見つけ、人知れず鏡の中で殺し合いを始めます。過酷なライダーバトルで終盤まで生き残ったライダーは、城戸真司(龍騎)、秋山蓮(ナイト)、北岡秀一(ゾルダ)、浅倉威(王蛇)であり、4人を中心に物語は進行します。

人間関係ドラマと北岡

多くのライダーが登場しては命を落としていく中で、主要キャラクター4人は戦いを通じて奇妙な友情が生まれるまでになっており、移ろいゆく人間関係も仮面ライダー龍騎の魅力です。

以下の関係性が物語の中心にあります。

城戸、秋山、優衣(神崎士郎の妹)

→人のために戦う。優衣を守る。

北岡、由良吾郎(北岡の秘書)

→仕事上のみならず、人生の相棒同士。

北岡、浅倉

→ライダーとしてのライバル同士。

城戸は「戦いを止めたい」と願い、秋山は「戦って恋人を助けたい」と戦いの目的は異なるものの、城戸と秋山は人のために戦う人間である点で共通しています。優衣は「誰かのために戦っているから」秋山を信用していると述べており、城戸、秋山、優衣は利他的で価値観の重なる仲間同士のような関係です。

一方で、北岡は徹底して利己的な人間に見えます。

黒を白にする悪徳弁護士として有名であり、悪どい商売をしているクライアントのお金を横領するなど自らが法を犯すこともあります。

浅倉は自分を弁護して無罪にできなかった北岡に逆恨みをしており、北岡への怒りが原動力となってライダーに変身していました。北岡と浅倉はライバル関係であり、何度も戦います。

北岡はお金好き、名声好き、そして女性好きで美人ジャーナリストの令子を口説き続けます。

まだ若い城戸、秋山は戦いに対して終始迷いがあり、物語の時期によっては意見が転々としてしまいます。人の命を奪うライダー同士の戦いに対して悩みや葛藤を見せる姿は人間らしくもある一方で、青臭さも感じてしまいます。

しかし、北岡は作中で一貫して自己が揺らぐことなく、自分の命のために戦い続けます。北岡らしい台詞がいくつも登場し、「俺は人間の欲望を愛してる」「忍耐、我慢をありがたる奴は多くいるが、そういう奴に限って欲望を満たす才能も力もない」等々、言葉の節々から北岡の哲学を感じます。

弁護士として能力を発揮し財を成し、ライダーとしても強いため誰にも負けることはありませんでした。ただ人間性には非難の嵐であり、小さい女の子に「最低」と言われ、秋山からも「最低」と評される北岡は、「(最低)だから強いんだよ」と言い放ちます。

このような人間にはお金はついてきても、他の人間は誰もついてこないように思ってしまいますが、北岡を「先生」と慕うのが、秘書の吾郎です。吾郎は料理が得意で格闘も強く、浅倉に捕まっても独力で脱走する頭脳を持つ、何でも出来る超人であり、北岡の秘書以外にも仕事は見つかりそうです。

「以前、北岡の弁護によって人生を救われた」と恩義があることを明らかにはするものの、恩義以上に吾郎は確かに北岡を慕って秘書の仕事に就いています。

なぜ北岡は魅力的なのでしょうか。

北岡の魅力

おそらく北岡は、徹底して筋を通す男だからだと思います。

北岡は決して迷いません。

ライダーの戦いに参加する理由は、不治の病を患い余命短い自分の命を救うためです。それ以外にありません。

ライダー同士の戦いに勝つため、北岡は変身しての戦いだけでなく、時には倒されたような演技をし、時には警察を巻き込み、あの手この手で勝ち残ろうとします。浅倉に土下座をして時間を稼ぐ北岡の姿からは、普段の敏腕弁護士としてメディアで取り上げられるカッコよさは感じられません。

戦って生き残るライダーとして与えられた役割を、どんなに泥臭くても全うしているのです。

ライダーとしての北岡は迷いなく自分のために戦う利己的な人間に見えますが、自分だけでなく、他人に対しても筋を通します。

北岡は自分が病に苦しんでいることもあり、他人が「病気だ」と知ると居ても立っても居られません。見ず知らずの女の子の母親が病気で入院しているが、お金がなくて手術ができないと聞いた瞬間、何のためらいもなく匿名で入院費を寄付しました。浅野が病気かもしれないと聞いた時は、浅野の希望を叶えるためにデートへ向かいました。

また、北岡は筋が通ってない他人の言動を認めません。主人公である城戸が精神的に追い詰められ、信念を曲げて無理にライダー同士で戦おうとする場面があります。城戸が「戦いに来た」と北岡に言いますが、「お前、何があったのかしらないけど、見てらんないよ。」と言い戦いを拒みます。その後、秋山の携帯に北岡は電話し、「城戸の様子がおかしいぞ。」と忠告を入れます。

本来は敵であるはずの城戸を慮る利点はないはずですが、城戸らしさがなくなっていることが許せなかったのでしょうか。城戸の人間性を認めるような発言もしており、決して冷酷で利己的な人間ではありません。実際に、作中で1人もライダーを殺すことはしませんでした。

「英雄になりたい」と言う東條(タイガ)に対して、「英雄ってのはさ、英雄になろうとした瞬間に失格なのよ。」と言い矛盾をつきます。北岡の言う通り、「英雄になりたい」と思って戦っている時の東條は英雄から遠く離れて行きましたが、その後トラック事故から親子を反射的に庇い、東條は死後に英雄となったのでした。

北岡の最後

物語の最終盤、北岡の病が進行し何度も倒れ、目も見えなくなり、最後には戦えない体になってしまいます。肩で風を切るような北岡はもうおらず、何度も殺し合いをしてきた秋山は同情ゆえか、北岡の体調が悪くなった時はすぐに助け病院へ運びました。

北岡自身も死気が近いと感じ取りライダーとしての戦いからは脱落し、人生の最後に、物語の序盤から口説き続けてきた令子との食事の約束を取り付けます。周囲の応援もあり、ようやく叶った2人きりでの食事会でしたが、スーツを持ってきた吾郎に対して、「浅倉と決着をつけてやりたい。」と言い、意中の女性との食事会ではなく戦いを選びました。

「浅倉をライダーにさせたことは自分にも責任がある。」

北岡はライダー同士の戦いで勝者になれないことを知った上で、自分のために食事会に行くわけでもなく、自分のために戦うこともなく、命が消えそうな最後の瞬間、浅倉のために戦うことを選ぶのです。

結局、北岡は令子との食事に行かず、戦いに赴くことも出来ず、自宅で息を引き取ってしまいます。

北岡の意思を継いだ吾郎はゾルダに変身し、浅倉との最後の勝負をします。

北岡が決着をつけに来たと勘違いし喜ぶ浅倉は、王蛇に変身しゾルダ(吾郎)を倒します。地面に倒れるゾルダを見た浅倉は、「北岡」と何度も呼びます。

動かないゾルダの元からどこか悲しそうに去ろうとした浅倉が、「お前…」と気づき振り返ると、ゾルダの変身が解除され吾郎が現れます。自分が倒したのは北岡ではなく、北岡とはもう戦えないことを悟った浅倉は大声をあげて発狂します。

浅倉に対して筋を通そうとする北岡、その意思を果たそうと最後まで北岡に忠を尽くす吾郎、北岡と吾郎、2人の男の行動から何かを感じる浅倉。

浅倉は、「なぜだ。」と何度も言い続け、銃を持つ警官達の群れに鉄パイプ1本だけを持ち突撃し、射殺されます。

浅倉は今まで仮面ライダーの力を使って何度も警官を倒してきたため、鉄パイプ1本での突撃は浅倉の自殺ともとれる行動です。浅倉にとって、北岡との戦いはライダーとしての自分の全てだったのかもしれません。

決して自己が揺らぐことはなく、自分に対しても、他人に対しても真っ直ぐに筋を通し続ける北岡の姿勢は、他の人々からも認められていたことでしょう。城戸、秋山、吾郎、そして浅倉の心までも動かし、自分にも他人にも筋を通すという北岡の正義は、黒を白にする悪徳弁護士としてではなく、人間として真っ白な純粋さがあるように感じます。

北岡は最後、自宅のソファーで永眠します。眠っている彼の手元には、白い薔薇がありました。

そして、レストランで北岡を待つ令子の目の前には、北岡の手元にある花とそっくりな白い薔薇があるのでした。

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