漫画原作版「マイ・ブロークン・マリコ」感想と考察

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※ネタバレを含みます

主人公:シイノが昼休憩で食事をしている時、友人であるマリコが自殺をしたというニュースが流れるコマから始まる今作。

決して読んでいて楽しいとは言えず、善人がほとんど登場しない作品です。

マリコの父がどうしようもない人間であることはもちろん、シイノの上司も最悪、飲み屋にいるおじさん達は気持ち悪い、美しいはずの岬にはひったくりまでいる。

せめてマリコの彼氏が善人であれば救われる展開がありそうでしたが、シイノがフライパンを振り回して追い出すほどの悪人でした。

マリコ父の再婚相手であるタムラさん、ナリタ商店のマキオくん、この2人だけが唯一の正義で、2人によりシイノは救われます。

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現実と記憶の往来

シイノは普通のOLとして描かれており、シイノの特別な才能を際立たせる描写もなく、あらゆる読者が感情移入しやすいキャラクターです。

普通の生活を送るシイノの現実の世界と、マリコとの思い出の世界が交互に表れます。

前述の通り善人が登場しない物語なので、現実の世界では嫌なことばかりが起きます。

では思い出の世界は美しいかというと当然そんなことはなく、マリコをとりまく不幸なことばかりが描かれ、当のマリコ自身も狂気を感じるほどのシイノへの依存を見せます。

「どんどんあのコの記憶が薄れていく」

「きれいなあのコしか思い出さなくなる」

「私、何度もあのコのことめんどくせー女って思ったのに」

シイノはマリコとの思い出を美化していることを認めており、思い出の世界は作られたファンタジーの世界になっていました。

思い出が脚色されている主観に気づかなければ幸せでしたが、シイノは自分の認知に気付いてしまい、せっかく美化して綺麗なはずの思い出が辛くなる、救いようのなさがあります。

シイノが、マリコの遺骨をマリコの父親から奪い取り岬を目指し、帰宅します。

家に帰ると、岬へ行く前から干していた洗濯物を片付けてなかったことで現実の世界に引き戻されます。

シイノにとってはマリコの遺骨を岬へ埋葬することが言わばお葬式となっており、異なる遺骨を奪い岬へ行くという行動が日常とは異なる儀礼となっていたのでしょう。

マリコは生きていたと言えるのか

今作は死んでしまった友人を弔う話だと表現できます。

しかし、自殺する前のマリコは生きていたと言えるのでしょうか。

マリコの精神は壊れており、心は死んでいたように思えます。

精神的に死んだマリコは、生きていたと言えるのでしょうか。

肉体的な死は、マリコの死と言えるのでしょうか。

今作では、マリコを救う手段がなかったように思えます。
シイノ1人の力では、マリコを救うことは難しかったでしょう。

では一方で、マリコは死んでしまったと言えるのでしょうか。

シイノが生きる現実に、何度も入り込んでくる記憶の中のマリコ。

シイノへの依存を辞められなかったマリコにとって、シイノの記憶の中で生きるのはマリコらしい選択だったのかもしれません。

友人と母親

シイノとマリコは対等な関係ではありませんでした。

マリコはシイノを母親のように慕っているものの、シイノはそれに応えることができません。

ところどころに挟まれる挿絵は、マリコを抱き抱えるシイノの構図が何度も登場します。

子供のマリコから始まり、マリコが段々と大人になっていきます。

しかし、シイノはマリコと同級生であり、決して母親ではありません。当然、母親の役目を求めるのは酷でした。

シイノに依存するしかなかったマリコの親離れ、自立の手段が自殺だったのでしょうか。

ただ、シイノとマリコが同級生らしく友人として遊ぶ日のような、母親と子供という関係をリセットし、友人同士の関係を築き直せられたのなら、もしかするとマリコは自殺という手段をとらなかったかもしれません。

最後の手紙

シイノがマリコの弔いを終え日常に戻った後に、ふいに手紙により出現するマリコ。

ここで登場するマリコは思い出の世界にいるマリコではなく、現実の世界に登場したマリコです。

手紙という一方的なコミュニケーションではありますが、今作で初めて行われる現実世界でのマリコとのやり取り。

手紙の内容については、読者の想像に委ねられてします。

個人的には、どんな内容であったとしても、作者が考える最後の手紙に相応しい一文を見てみたかった気持ちがあります。

しかし、手紙の内容ではなく、手紙を読んだタイミングが重要だとも思います。

死により自立したマリコ。自由になったマリコから発せられる言葉は、何だったのでしょうか。

マリコを母親としてではなく、依存相手としてではなく、友人として見ているマリコから発せられる言葉こそ、どんな思い出よりも美しい言葉だったのだと思います。

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