現時点では、非常に読者の少ない当ブログではありますが(読んでくださる方ありがとうございます)、そんな中で「鯰絵」についてまとめた記事が人気でしたので、今回も浮世絵についてのレポートを書きたいと思います。
文章が長く読みづらいですが、読んでいただけると嬉しいです。
浮世絵は、日本人ならば誰もが知っている、江戸時代を代表する絵画です。現代にも伝わるこの浮世絵は、江戸時代、いかにして庶民に広まったのでしょうか。今回は、自分なりに少し調べてみました。
菱川師宣
まずは、有名な浮世絵作家の一人である「菱川師宣」に注目します。
菱川師宣の作品について調べる中で、興味深い文章を見つけました。内田啓一氏の『江戸の出版事情』にある、以下の記述である。
さて、浮世絵は菱川師宣から始まる。見返り美人の作者として有名な師宣だが、草紙の挿絵を手がけていた。その話の内容とともに、挿絵絵師・師宣に注目が集まったらしい。(中略)師宣の場合もそうやって一枚摺でも市場の要求に応えた。それが浮世絵の始まりである。¹
上記の記述によると、浮世絵とは挿絵から広まった芸術だそうです。挿絵で名をあげた菱川師宣は、その後「見返り美人図」のような有名作品を次々生み出していきます。
現在でも小説や漫画の内容ではなく、作品に描かれている絵や、キャラクターが人気になることがしばしばあります。浮世絵が社会に広まったのは、このような現代でも見られるような現象が挿絵に起こったのでしょう。江戸時代に浮世絵が庶民の人気を得た理由の一つに、挿絵への注目度の上昇があったのだと考えられます。
では、どのように挿絵が大衆に好まれるようになり、「見返り美人図」が生まれたのでしょうか。
「浮世絵の始祖と位置づけられる菱川師宣の名が最初に認められるのも、寛文十二年刊の墨摺絵本『武家百人一首』においてである。」²と、『もっと知りたい浮世絵』に記述されています。
ここから、武家百人一首で認知され始めた菱川師宣が、その後出した作品について、菱川師宣の有名な挿絵をいくつか取り上げます。
一つ目は菱川師宣作の「江戸雀」です。
「江戸雀」とは、江戸で刊行された初めての江戸地誌であり、実用的な江戸の名所案内として作られました。
しかし作品を見てみると、ガイドブックと謳っておきながら、私達が想像するような地図ではありません。地理関係を示すにはあまりにも大雑把です。
ここでは、道や地形ではなく、江戸で生きる人々の生活が生き生きと描かれており、江戸でどんな暮らしがされているのか、絵を通じて知ることができます。
それゆえ、「江戸雀」は江戸の地図としてではなく、江戸の生活を描き出している作品として、人気になったのだと思います。
「江戸雀」が出版された1677年前後の日本は、江戸の生活風景を映し出す作品が好まれていたのではないでしょうか。
この考察を裏付けるべく、二つ目に紹介するのは、1678年に出版された菱川師宣の作品である「吉原恋の道引き」です。
この作品は、見開きいっぱいに絵が描かれており、文字の割合が少なくなっています。
江戸の歩き方を示す作品ではあるが、人物が巧みに描かれています。
また、1682年に出版された「浮世続」も、文字の割合がより小さくなり、人々の生活を中心に描いています。
このことから、やはり江戸の生活を表現するテーマの作品が人気を博していたと推測できます。こうして、社会に好まれる作品を的確に生み出し続けることで、挿絵が人気となり、「見返り美人図」の完成、そして誰もが好む浮世絵の確立へと繋がったのでしょう。 (江戸雀)³
(吉原恋の道引き)⁴
あるあるネタの浮世絵
他に挙げられる人気の理由としては、価格面で庶民が買いやすかった点も、浮世絵が広がった要因だと思います。
小林忠氏は、『浮世絵』の中で「一枚の版画は、特殊な例外を除いて蕎麦一、二杯ほどの廉価な値段で入手できたので、大人はもとよりのこと年端のいかない子供までも親におねだりできるものであった。」⁵と述べています。
価格帯が低いことで、安く楽しめる娯楽としても人気を集めたに違いないでしょう。
ですが、草双紙の中の浮世絵作品を多く鑑賞してみると、価格以上に気になる共通点が浮かび上がってきます。
上記で考察した菱川師宣の作品テーマにも通ずるものがありますが、江戸時代の浮世絵は、ありふれた日常を描き、庶民の共感を得る作品が流行だったのではないかと思うのです。
「江戸雀」が出版されてから、約100年後に出版された「画本纂怪興」を例に考察します。
そもそも、草双紙になぜ怪異表現が出現したのか疑問でした。この時代は電気もないために、闇の中で人々の妄想は膨らみ、次々と化け物が絵の中で生まれたのでしょうか。
この仮説も一つ有力ではありますが、『へんちくりん江戸挿絵本』に面白い記述があります。
「『画本纂怪興』は日常にありえる人や行為を化け物になぞらえます。」⁵と小林ふみ子氏は述べています。
化け物が恐ろしさを感じさせる対象ではなく、滑稽さを描くためのものとして怪異表現を用いた浮世絵を見ると、日常の「あるある」という感覚を、怪異表現を用いて描いているように思われるのです。
「画本纂怪興」に出てくる「引づり女」は、夫を尻に敷く嫁の様子を、ユーモアを交えて表現しています。
菱川師宣は「江戸雀」で、町人や武士等の江戸の暮らしを描くことで、庶民の「あるある」という共感を呼びました。
「江戸雀」が出版された約100年後の江戸でも、あくまで妖怪を通じて、日常生活の「あるある」を描いていました。
浮世絵は時期によって「あるある」の描き方や表現方法が異なるだけで、「共感を得る」ことが浮世絵にとって重要なテーマであり、江戸庶民に人気を得た理由だったのではないでしょうか。
現代でもTwitter等のSNSで、日常の「あるある」を表現する投稿が人気になることが多いです。浮世絵が江戸時代に庶民の人気を得たのは、庶民の日常生活に対する共感を誘う作品が、数多く出版されたからだと思うのです。
(画本纂怪興)⁶
<参考文献>
1. 内田啓一氏 『江戸の出版事情』(青幻社、2007年)
2. 田辺昌子氏 『もっと知りたい浮世絵』(東京美術、2019年)
3. 東京都立図書館(https://www.library.metro.tokyo.jp/portals/0/edo/tokyo_library/modal/index.html?d=059観覧日)
4. 立命館大学ARC所蔵 浮世絵検索閲覧システム (https://ja.ukiyo-e.org/image/ritsumei/Z0163-011 )
5. 小林ふみ子氏 『へんちくりん江戸挿絵本』(集英社インターナショナル、2019年)
浮世絵の本の紹介
ここから、浮世絵について調べるにあたり参考にした本を紹介します。
ぜひ読んでみてください。
まとめると
このレポートで言いたかったことは、
浮世絵は、「あるあるネタ」である。のかな?
浮世絵鑑賞をする際は、「どんな生活感を感じられるのか・描かれているのか」に着目して見ると面白いかもしれませんね。