メタルギアソリッドピースウォーカー(MGSPW)の紹介、感想と考察

作品の感想
スポンサーリンク

メタルギアソリッド ピースウォーカー(METAL GEAR SOLID PEACE WALKER)はPSP用ソフトとして2010年に発売されました。

メタルギアシリーズのナンバリング第8作目です。
前作メタルギアソリッド4でメタルギアシリーズの物語が完結しました。ただしビッグボスの行動には謎が残る部分が多く、ビッグボスというキャラクターにより深みをもたせるような作品となっています。

今作のテーマはその名の通り平和(PEACE)です。あえて補足するとしたら、(抑止による)平和、かと思います。

舞台はメタルギアソリッド3から10年後、メタルギアソリッドポータブルオプスから4年後です。メタルギアオプスは正史に含めるべきか扱いが微妙な作品であることを考えると、今作はメタルギア3でビッグボスとなったスネークがアウターヘブン蜂起に至るまでを埋める重要な作品です。

今作から新たに登場するキャラクターが多く、ビッグボスを取り巻く新たな人間関係はそのまま最終作であるメタルギアソリッド5につながります。

また、前作のメタルギアソリッド4はPS3で発売されたことで、ゲームコアファンではない学生ユーザーなどには手が届きにくいタイトルでした。しかし、このメタルギアピースウォーカー(以下MGSPW)は比較的安価な携帯ゲーム機であるPSPで発売されたことで、メタルギアシリーズの新規ユーザー獲得に大きく貢献した印象があります。当時中学生の頃、僕の周りにも初めて遊ぶメタルギアがMGSPWである学生達が沢山いました。MGSPW発売前後はモンスターハンター2ndG、3rdが大ブームであり、PSPを保有するユーザーが増えていたのもMGSPWにとって追い風だったかもしれません。

そのモンスターハンターシリーズとMGSPWはコラボをしており、MGSPWの特別ミッションとしてモンハン内に登場するモンスター達と戦うことができます。

ストーリーも変わらずよく練られており、今までのメタルギアファンもライトユーザーも、全ての人が楽しめるゲームとなっています。

操作、遊び面の評価

以前PSPで発売されたメタルギアオプスと同様に、今作は仲間集めができ、敵の組織に潜入する長いミッションではなく、細切れのミッションに挑戦する仕様です。

物語が進むムービーでは、基本的にポリゴンデモではなく絵でストーリーが進みます。ただ要所でポリゴンデモが使用され、ムービー中もプレーヤーにボタン操作を求められインタラクティブに遊ぶことができます。

メタルギアオプスの仲間集めがより本格的になり、マザーベースというスネーク達の居住地が部隊の充実により拡大していきます。フルトン回収システムにより、メタルギアオプスのように兵士をトラックまで引きずる必要はなく、ストレスなく敵兵を集めることが可能です。

仲間にした兵士をミッションで動かせるのはもちろんのこと、アウターオプス(OUTER OPS)というミッションでは、ビッグボスが戦地に赴かず、仲間の兵士や、鹵獲した戦車・戦闘ヘリ、そしてメタルギアを紛争地域に派遣します。ビッグボスが集めた仲間の貢献を直接的に感じられるのは頼もしい一方、ビッグボス達が大義のないPMC(民間軍事請負企業)へと変貌する過程を経験できてしまいます。

ハードの特性を活かして他のユーザーとの協力プレイや対戦が可能であり、メタルギアでは珍しくオフラインで友達と一緒に遊べるタイトルでした。協力プレイ(CO-OPS)ならではのアクションもあり、純粋なアクションゲームとしても需要に合っていたと思います。

操作方法はかなり簡略化され、アクションの種類に制限はあるものの携帯ゲーム機でも遊びやすくなっています。主観視点がない点や、匍匐前進がない点はシリーズファンには残念だったかもしれませんが、ゲーム進行において支障が生まれることはなく、むしろライトユーザーの遊びやすさを考えると的確な操作方法でした。

一方で無線と武器選択がリアルタイムとなりゲーム画面が止まらないため、緊迫感のあるよりリアルな潜入となりました。CQCのアクションが前作メタルギア4よりも増え迫力があり、扱える銃器の種類は多いものの近接戦闘におけるCQCの優位性は過去最高だと思います。

PSP版発売の1年後である2011年にはPlayStation 3、Xbox 360用にメタルギアソリッド ピースウォーカー HDエディション(METAL GEAR SOLID PEACE WALKER HD EDITION)が発売されました。画期的な点としてPSPとPS3でデータを共有でき、家ではPS3で遊び、外出先ではPSPで遊ぶことができます

PS3版に限り、PSP版MGSPWが ダウンロードできるプロダクトコードが封入されているため、PSPを持っているユーザーは新しくPSP版のMGSPWを買い直す必要はありません。任天堂Switchは2017年に発売され、家では据え置きゲーム機として、外では携帯ゲーム機として遊べる仕組みで大人気となりました。メタルギアソリッド ピースウォーカー HDエディションは本編とは別に、先進的な遊び方を提供していました。

MGSPWストーリー解説

物語を復習するため、大筋を紹介します。
携帯ゲーム機で発売されたこともあり、ストーリーの長さは従来のシリーズと比較して長くはありませんが、ストーリーは意外と複雑です。

  • スネークがビッグボスの称号を与えられた10年後、ビッグボス達はコロンビアの地で国境なき軍隊(MSF)を率いて紛争に手を貸して生計を立てていた。
  • コスタリカの大学教授を名乗るザドルノフと、その教え子であるパスがビッグボス達の元へ訪問し、常設軍を有していないはずのコスタリカにいる謎の武装集団を追い出して欲しいと依頼する。武装集団はCIAが絡んでいると言う。
  • ビッグボスはザドルノフがKGBだとすぐに見抜き、米ソの争いは政治で解決すべきだとして断る。
  • しかし、パスの友人が武装集団に捕まった際に録音したカセットテープには、ザ・ボスの肉声が録音されていた。真実を追うためにビッグボスは任務を受け入れる。パスはMSFで生活する。
  • コスタリカに核が運び込まれていると判明し、FSLN(サンディニスタ民族解放戦線、アマンダやチコ達)という社会主義革命勢力と接触。彼女達はCIAに攻撃され隣国ニカラグアから逃げてきていた。
  • コスタリカで進められていたのは、AIを搭載し無人で歩く戦車、ピースウォーカーの開発であった。必ず核を打ち返すAIシステムを搭載した核報復戦車を量産することで、核抑止の理論を完璧にする狙いがあった。
  • ピースウォーカーの脳にあたるAI開発のため、英雄であるザ・ボスを模した擬似人格AI『ママルポッド』が開発されていた。このママルポッドがザ・ボスの声の正体であった。
  • ビッグボスが米軍基地に突撃すると、元CIAのコールドマンが核の威力を証明するためにMSFに向け核を発射しようとする。
  • ビッグボスの背後からザドルノフが登場し、実はコールドマンの仲間であったことが判明…その直後、ザドルノフがソ連兵により基地を制圧したと宣言し、コールドマンへ発砲。ピースウォーカーを横取りする。
  • ザドルノフは共産化したソ連側の象徴であるキューバに向け、米軍基地から核を打つことで、キューバを犠牲に国際世論の反米感情を高めようと企む。
  • ザドルノフがスネークを射殺しようとするが、FSLNのメンバーがスネークを救出しザドルノフと米ソの兵士を制圧した。
  • しかし瀕死のコールドマンは最後の力を振り絞り、ピースウォーカーからの核発射コードを入力してしまう。さらにソ連から米国へ核が打たれたとする偽装データを、CIAに向けて送信した。
  • スネークはピースウォーカーと戦い追い込み、核発射を食い止める。しかし米国へ送信された偽装データは止まらず、米国防省はソ連への核報復を決定する。人間は核を打てないというコールドマンの仮説は棄却された。
  • 米国からの核発射阻止が間に合わないかと思われたが、ママルポッドは自らの意思で、湖へと沈んでいった。
  • ザ・ボスが人生の最期に銃を捨て、自己犠牲を選んだ意思決定がAIにより再現されたのを目の当たりにし、ビッグボスは銃を握り続けて彼女とは違う人生を選ぶことを決意する。
  • ピースウォーカーによる核の危機から世界を救った後、ビッグボス達はピースウォーカーに搭載されていた核をMSFで独自開発したメタルギアZEKEに搭載し、核保有国となる。
  • パスが謎の組織CIPHERのスパイであったことが判明。パスとスネークの交渉は決裂し、パスがメタルギアZEKEを操縦して米国へ核を発射しようと暴れる。
  • メタルギアZEKEをビッグボスが破壊し、パスは海へ放り出され行方不明になった。なんと相棒のカズはザドルノフやパスの正体を最初から全て知っており、CIPHERともビジネスパートナーとして繋がっていた。MSF拡大のためのビジネスだと言う。
  • ビッグボスはMSFに向けて「ここが俺たちの家、天国でも地獄でもある『OUTER HEAVEN(アウターヘブン)』だ」と宣言。

二足歩行戦車ピースウォーカーは核発射戦車ではなく、あくまで核報復戦車です。そのため、〇〇に核を打つために、△△へ核攻撃を受けたとする偽装データをピースウォーカーに流して云々と、敵の狙いを注意して聞いていないと、今どこが攻撃対象になっているのか分からなくなります。

核による攻撃対象地域は次々と変化し、世界中の国々の喉元に銃口を突きつけられているような、今まさにこの瞬間に危機が迫っている切迫感がありました。恐ろしいことに、核の存在や核抑止はゲームの世界だけの話ではなく現実世界の話でもあり、MGSPWで感じた恐怖感はそのまま現実の恐怖ともなります。

MGSPWの世界では偽装データ1つで、核発射の意思決定を巡り米国防省内で銃を突きつけ合う事態になり、アメリカからソ連へ核を発射する寸前まで陥りました。力による抑止論、核抑止がいかに危険か痛感させられる作品だと思います。

また、メタルギアシリーズのボスは超人達が多かったのに対し、今作のボスはAIが搭載された無人戦車ばかりです。ザ・ボスの意思決定や経験を学習したママルポッドにより、ザ・ボスを模したAIとビッグボスの会話も行われます。この記事を書いている2024~2025年こそ生成AIブームでAIが身近な存在になりつつありますが、MGSPWが発売された2010年当時はAIとの会話などおとぎ話であり、MGSPWは時代を先取りしていたと思います。

たくましさが増したビッグボス

メタルギア3のスネークイーター作戦から10年の歳月が流れ、ビッグボスは39歳となり、すっかりリーダーとして完成形に近い状態です。

祖国の革命に燃えるアマンダが、いざとなれば弟であるチコの名誉を守るためにも「チコの命を終わらすように」と、ビッグボスへ遠回しに頼んだ場面がありました。しかしビッグボスは、「俺達は祖国を棄てた。それでも生きてる、それでも戦い続ける。生きる理由は他にいくらでもある。」と言い、心が折れかけているアマンダに生きる意思を与えます。

ビッグボスが敵に捕まっていたチコを救出した際には、「大人になるということは、自分で生き方を決めるということだ。」と諭します。チコが仲間に顔向けできないため「自分を撃って欲しい」と頼むと、スネークは銃を引き抜き写真に映るチコの心臓を撃ち抜きます。「弾丸を無駄にしたが、命は無駄にするな。」と言い放ち、チコを仲間に迎え入れるビッグボスはザ・ボスを彷彿とさせるカリスマそのものです。

言葉で仲間を鼓舞するのみでなく、カズに対して「アマンダを戦わせてやれ」と命令するように、バックオフィスでの人事施策も完璧です。ザ・ボスに向け「どうしてなんだ!」と叫び、まだ若々しさがあったあの頃と異なり、集団を統率するリーダーシップや強い男としての振る舞いが目立ちます。

しかし、それでも10年前のザ・ボスを殺害したことは未だに大きな心の傷となっているようで、ザ・ボスのAIを前にした時や、ザ・ボスの話題となった際には動揺が目立ちます。メタルギアソリッド3のストーリーを復習するためのムービーが差し込まれることもあり、MGSPWをきっかけにMGS3を遊ぶプレーヤーも多かったのではないでしょうか。

「(MGS3のBIGBOSS授与式で)握手を拒否した理由は何に忠をつくすべきか、それが分かったからだ。」とビッグボスの口から聞くことができ、MGS3とMGSPWは密接に繋がっています。一方で、カズが「サンヒエロモニとも縁が切れた」とメタルギアオプスとの関係をうっすら匂わせながら、オプスで登場したメタルギアRAXAはなんとなくなかったことになっている雰囲気もあり、やはりメタルギアオプスの扱いは微妙なままです。

今作の終盤ではビッグボスがザ・ボスとの決別を宣言し、迷いを振り切ります。ザ・ボスのAIが、まるでザ・ボスのように平和のため自己犠牲を選んだ姿を見て、時代に抗うことなく銃を捨てる道を選んだザ・ボスを思い出し、ビッグボスはザ・ボスに「裏切られた」と言います。時代を受け入れ、スネークを含む軍人としての全てを放棄したザ・ボスと異なり、ビッグボスとして時代と戦う宣言をします。

時代に潰されるか、時代そのものを変えることができるか。善悪を超えた戦い。

銃を握り続け核を持ち武力を高め、PMC(民間軍事請負企業)の先駆けとして、カネで買われる抑止力となる決意を固めたビッグボスの選択の是非は、メタルギアソリッド4で明らかになっています。

個人的に、ビッグボスは周囲の人間としてカズではない別の人がいれば、もっと違う選択をしていたようにも思います。MSFの拡大や海上プラントでの居住を推し進めたのはカズであり、スネークはPMC(民間軍事請負企業)のように戦争屋になることへ当初は否定的でした。

理念があるビッグボスとは異なり、カズはなりふりかまわず拡大や利益を求める、かなりのビジネスパーソン思考です。最終盤でザドルノフやパスの正体を知っていたとカズは言い、CIPHER(サイファー)とすらつながりがあったことがカセットテープから明らかになります。

ビッグボスがザ・ボスに「裏切られた」と言うのは、ビッグボスが過去を正当化し自分の精神を保つための自己弁護のようにも聞こえます。そのビッグボスが作り出した方便と、傭兵ビジネスを推し進めたいカズの存在が重なり、ビッグボスは国境なき軍隊MSFの拡大、そして武装要塞国家アウターヘブン建設に至ったのかと思います。

「一度銃を手にしたら地獄に落ちる。ようこそアウターヘブンへ。」

カセットテープ

今作から、ムービー化されていない(ハードの制約でできなかった?)重要な物語をカセットテープによる音声記録のみで知ることができます。そのカセットテープが物語の見方を一変させるほど重要であり、耳からの情報だけで物語を埋め合わせていく新しさがありました。

EVAからカセットテープで送られてきたメッセージは、ザ・ボスについてソローやCIA、賢者達との間に何が起こっていたか、物語の穴を埋める真実を告げています。たった30分の音声ですが、映像化して欲しいような充実した内容です。

以下の真実が明らかになっています。

  • ザ・ボスはCIAに酷使され犠牲を求められ続けたのにも関わらず、全てを受け入れアメリカに貢献していたこと。
  • 賢者達の策略により、ザ・ボスは夫であるソローを自分の手で殺すことになり、実の子供達も賢者達に奪われていたこと

また、本編だけを見るとKGB・CIA・CIPHERのトリプルクロスで冷酷なパスですが、パスが残したカセットテープを聞くと、彼女への同情が溢れてしまいます

内心ではビッグボスとその仲間達との生活に居心地の良さを感じているものの、パスはビッグボス達を裏切らなくてはならない状況に追い込まれており、ビッグボス達への裏切りという任務を苦渋の思いで実行します。

パスはMSF内で開催が予定されていたパーティーを楽しみにしており、そこで披露する歌も密かに練習していました。結局ビッグボスに敗れ海に飛び落ち、行方不明となるパスですが、この後のメタルギアソリッド5ではさらに過酷で辛い運命が待っており、パスは作中で最も辛いキャラクターかもしれません。

のめりこむ演出、恋の抑止力

携帯ゲーム機によりグラフィックや迫力は前作メタルギア4には劣りますが、相変わらず演出は素晴らしいものがあります。

序章をクリアすると核兵器だ!コスタリカに、核が持ち込まれている!」とビッグボスが突き止め、いざ本編が始まるという演出は素晴らしい導入です。

メタルギア3と同様に、再びビッグボスはプレーヤーと共犯になり、AIのザ・ボスであるママルポッドを破壊する場面があります。AIで蘇ったザ・ボスから基板を抜き取ると、AIは壊れ始め、最後は「ジャック」としか言わなくなります。もう世の中にいないはずのザ・ボスの思いを再確認し、その上でAIザ・ボスを破壊するのは、スネークイーター作戦でザ・ボスへ引き金をひいた全てのプレーヤーの胸を熱くするものがあったのではないでしょうか。

MSFで開発したメタルギアZEKEがパスに乗っ取られ、ビッグボスが戦う場面では、「恋の抑止力」というパスが歌う曲が流れます。背景を知らないとBGMの選定が場違いに思えますが、この曲が実はMSFでのパーティーでパスが披露しようと練習していた歌でした。

パスとともに歩めたのかもしれない別の未来を感じながら、ビッグボスはパスに銃口を向けるのです。

否定できないサイファーとゼロの理論

CIPHER(サイファー)からの使者として、パスはCIPHERの思想を代弁します。ザ・ボスという英雄を敬愛したゼロとビッグボスの対立が過ちの始まりだと言い放ちます。

銃を手放さないビッグボスに対し、CIPHERは銃を管理することを目指します。

冷戦の終結後、各国の諜報機関が電子の世界に統合されることを見据え、電子世界を見張り、支配することで世界を一つの意思に誘導する。つまり、デジタル世界を支配することで、人類の無意識下で世界を一つにする(=ザ・ボスの世界を一つにするという思想の再現)ことが狙いです。

CIPHERの狙いを実現するためにビッグボスへ力を貸すよう指示しますが、当然ビッグボスはその提案を拒否します。「力を管理などできるはずがない」とビッグボスは言い交渉は決裂しますが、パスが言う「お前達という抑止力が存在する以上、真の平和は訪れない。ひとときの平和幻想の中で、(中略)最後には社会悪として棄てられる。」というセリフも、核抑止の危険性を踏まえると真っ当な意見です。

ただし、CIPHERとパスは自らのやり方で平和を実現できると証明するため、つまりビッグボス達を悪者にするために米国へ核を打とうとしたため、真の平和主義者とは異なりますが、CIPHERの思想にも一定の妥当性はあると思います。

現実世界に目を向けるとソーシャルメディアの発達等により、全世界でリアルタイムにデジタル空間で情報共有ができるようになった2000年代以降、メタやバイトダンスに代表されるSNSのプラットフォームを持つ少数の大企業が、投稿の制限などにより容易にデジタル世界と人々の意思を操作できています。なお、このデジタル世界を統治するテーマについては主にメタルギアソリッド2で論じられます。

直接的に武力を行使しない、CIPHERの平和の目指し方を完全に否定することは、ビッグボスの立場であればなおさら難しいでしょう。

カズとビッグボスの会話で「CIPHERの意味は空とゼロ」とあり、CIPHERの背後にはゼロがいたことが暗に示されています。ゼロとビッグボスが、取り返しのつかなくなる前にどこかで話し合い、折り合いをつけることはできなかったのかと残念に感じてしまいます。

パスが泣く泣くビッグボスを裏切った件も同様ですが、お互いにあと一歩の歩み寄りと対話があれば、防げた悲劇は多かったのではないでしょうか。

見落とせないストレンジラブ博士の思想

ストレンジラブはMSFで開発したメタルギアZEKEにAIポッドを搭載します。彼女は国家の介入に対する抑止力としてメタルギアZEKEを保持するMSFを否定するわけではなく、抑止力自体を否定するわけでもなく、「国家が抑止力に頼るのが問題」と考えています。

ストレンジラブのセリフをそのまま引用します。

国家が抑止力に依存すると、国民の共同体であるはずの国家という組織が国民に犠牲を強いるようになる。そもそも国家という存在自体が人間にとって害悪なんだ。だから私は、国家に帰属しないMSFに可能性を感じている。

ストレンジラブもザ・ボスの言う「世界を一つにする」思想に影響を受けている様子が感じられ、実は見落とせない意見を持っています。グローバル化が進行した今、国家があるから争いが生まれるのではないか、そもそも国家は今の時代に必要なのか、という問いは議論の余地が大いにあるのではないでしょうか。

MSFは国のためでも、政府のためでもなく、必要とされているから戦い、持てぬ者たちの抑止力を標榜します。

抑止力そのもののビッグボスに対し、国家の否定から考えるストレンジラブと、両者の思想は若干の乖離が生まれそうではありますが、ザ・ボスの意思の実現が共通の目的としてありながら、異なる解釈を突き合わせて前に進もうとするMSFは、ある意味では健全な組織だとは思います。

しかし、だからこそザ・ボスの思想を受け継いだゼロとCIPHERは、銃を持ち対立している場合ではなかったのではないでしょうか。

カズはビッグボスの相談を仰がず、傭兵ビジネスの拡大と成長だけに猪突猛進するべきではなかったのではないでしょうか。

「今日から俺はBIGBOSSだ」

力強く宣言するビッグボスの頼もしさを感じる一方で、悩みながらスネークとして生きていたビッグボスの人間らしさは、失ってほしくなかったと感じてしまいました。

タイトルとURLをコピーしました