『メタルギアソリッド3 スネークイーター』(METAL GEAR SOLID 3: SNAKE EATER)は、 コナミからPlayStation 2用ソフトとして、2004年に発売されました。
テーマは「SCENE(時代)」です。
初代メタルギア1・2、メタルギアソリッド1、2とメタルギアシリーズのナンバリング第5作目ではありますが、メタルギアシリーズの時系列としては一番最初であり、全ての始まりの物語となっています。
後のビッグボスであるスネークが主人公で、若きオセロットとエヴァ、愛国者達の前身である賢者達と、シリーズの根幹となる重要な作品です。
またシリーズ最高傑作の呼び声高く、無印版の発売後20年以上にわたり、何度もリマスター版が発売されています。
発売日は未定ですが(2024年時点)、完全リメイク版でPS5、Xboxからメタルギアソリッドデルタが発売される予定です。
- 2004年 オリジナル版(PS2)
- 2005年 完全版(PS2)
- 2007年 メタルギア20周年記念版(PS2)
- 2011年 メタルギア ソリッド HD エディション(PS3/Xbox360)
- 2012年 メタルギアソリッド スネークイーター 3D(3DS)
- 2023年 METAL GEAR SOLID MASTER COLLECTION Vol.1(Switch/PS4,5/Steam)
- ?? METAL GEAR SOLID Δ: SNAKE EATER
この記事では、メタルギアシリーズの大ファンである僕が、メタルギア3の紹介をします。ネタバレを含みます。
操作、遊び面の評価
今作のメタルギアソリッド3は、シリーズ原初の遊びである、単独潜入のステルスミッションに忠実なゲームです。
後に発売されるメタルギア4やPW、5はミッションが細切れになっていたり、ボス敵との戦闘がメインになるため、1人で長期に渡り敵地へ潜り込むミッションは、今作が実質で最後となっていると思います。
スタミナゲージ、カムフラージュ率、サバイバルキュアーとメタルギア1、2にはなかった要素があり、楽しみ方の幅が広がっています。近接戦闘であるCQCが導入されたのも今作が初めてで、武器を使わない潜入の美しさが感じられます。このCQCの存在でスネークがいかに強い男なのかが際立ちます。
ストーリーの作り込みも素晴らしく、凝ったストーリーではあるものの難解ではありません。また、前作と異なり謎を残しストーリーが終わるわけではなく、物語がしっかりと完結する上、過去作の知識がなくても楽しめる作品です。
肩越し視点はなく(METAL GEAR SOLID Δで実装)、銃撃は俯瞰カメラと主観視点のみである点は今となればやや残念ですが、アクションの操作性、遊び方の種類、やり込み要素、そしてストーリーの完成度と、総合点ではシリーズナンバーワンの評価もあります。
クリア後も楽しめる要素が多く、ステルス迷彩を手に入れるため血眼になってケロタンを探したことは良い思い出です。無線にもシリーズファンならクスッと笑ってしまう小ネタや、物語の根幹に迫るような情報があり、やり込みがそのままシリーズへの理解にも直結します。
メタルギアソリッド1、2ではソリトンレーダーという敵兵の位置と視覚情報が表示されるレーダーがありましたが、今作からはプレーヤーの目と耳だけが頼りであり、息を潜めてジャングルに潜り込むリアルな潜入ミッションを味わえます。ソリトンレーダーのある・なしによって全く別のゲーム体験となり、任務の難易度は上がっているものの、単独潜入を存分に楽しむには今作が最も相応しいでしょう。
僕は中学生の時にこのゲームに出会いました。
既にメタルギアソリッド2を7周ほどプレーしており自信を持って臨みましたが、初めてPS2版のメタルギア3を遊んだ時にはソリトンレーダーを使わずに潜入するやり方が難しく、最初のステージで何度も殺され衝撃を受けました。
こまめに視点を切り替え兵士の顔の向きに注視し、こっそりと兵士の背中を通り抜けるあの瞬間は、まさにメタルギアらしい遊びが体験できます。
MGS3ストーリー解説
以下からはネタバレを交えながら、物語の感想を書きます。
なお、ここで言及するスネークとは後のBIG BOSS(ビッグボス)を指します。
あらすじ
最初に物語を復習するために、プロットを簡単に紹介します。
- 時代は1964年、冷戦下。アメリカのCIAに所属する特殊部隊、FOXの一員であるスネークにソ連への潜入任務が与えられる。
- スネークはソ連に単独潜入し、天才科学者ソコロフをKGBからアメリカのCIAへ奪還しようとする。
- しかし、味方だと思っていた英雄ザ・ボスが裏切りソ連に亡命し、ソ連のGRU側につく。スネークはソコロフをザ・ボスとGRUに奪われ、任務失敗。GRUは核兵器搭載戦車『シャゴホッド』もKGBから奪い、ソ連内の権力争いに勝ち戦争を仕掛ける狙いがあった。
- GRUのヴォルギン大佐が同胞のKGBにアメリカの核を打ってしまったことで、ソ連からアメリカ側の潔白を証明するように要求がある。
- 潔白を示すために、ザ・ボスを米政府の手で抹殺する必要が生まれる。
- 抹殺の任務を託されたのは、ザ・ボスの弟子であるスネーク。スネークが再び単身でソ連に潜り、GRU内に潜入開始する。
- KGBのスパイであるEVAからの協力を得て徐々に敵地の中心部へ潜り込む。
- スネークが任務を遂行し、核戦争の危機を回避。真の英雄としてBIGBOSSの称号を与えられる。
- しかし、ザ・ボスの亡命は偽装亡命であり、米政府から与えられた本当の任務はGRUのヴォルギン大佐が持つ賢者の遺産※入手であった。
- さらにヴォルギン大佐が米国製の核を発射したことで、ザ・ボスの任務は修正され、犯罪者としてソ連の地で死を求められていた。
- GRU内部にいたオセロットとEVAも、賢者の遺産を入手するためのスパイであった。
- ザ・ボスとオセロットの活躍により、最終的に賢者の遺産は全額アメリカが手に入れる。
※賢者の遺産について補足をします。アメリカ、ソ連、中国の有力者達が創り、世界を裏で支配している闇の組織、賢者達という組織がありました。その組織が残した莫大な資産が賢者の遺産です。
他のメタルギアシリーズと比較するとそこまでストーリーが難しくなく、前提知識も必要ないので、誰にでも楽しめる物語となっています。
また、今作は正義が明確である点も、物語の解釈をするにあたりプレーヤーの負担軽減につながっています。ザ・ボスはあの英雄BIGBOSSの師匠であり、彼女の言動に間違いがあってはなりません。他作品のように賛否が割れるキャラクターが少なく、ザ・ボスは善、ヴォルギンは悪と明確です。メタルギアソリッド3はメタルギアシリーズの源流であり、後のタイトルから徐々に各キャラクターの意見が分離し対立していくため、今作はメタルギアシリーズの前提条件としてあえて解釈の余地を小さく作られているのかもしれません。
ただし、だからと言って物語が一本道で単調というわけでは全くなく、映画顔負けの物語はプレーヤーをメタルギアの世界へ没入させます。スネークから迷いと孤独を感じる導入から仲間の心強さを感じる中盤、終盤にかけてヴォルギンとの戦闘やカーチェイス、追いかけてくるシャゴホッドと物語が盛り上がり、クライマックスではザ・ボスと静かな決闘。そして最後にようやくザ・ボスの真意を垣間見てエンディング、とシリーズ最高傑作と名高い評価に納得の作品です。
スパイであるオセロットとEVA(エヴァ)
ただ、相変わらずオセロットのスパイ問題が話をややこしくしますので、簡単に整理をします。
アメリカから亡命したKGBのスパイである、ADAMとEVAはCIA側(スネーク)に協力することになっていました。
しかし、ADAMは約束の場所でスネークの前には現れず、分かりやすい協力はありません。なぜADAMが現れなかったのかは明かされていません。
実はオセロットがADAMであり、GRUの少佐として賢者の遺産奪還のためスパイを行っていました。オセロットがスネークとの最後の決闘で、「俺の名前はアダムスカ」と言った時が閃く場面です。
更にオセロットはKGBのスパイのふりをしたCIAのスパイでもあり、トリプルクロスでした。中国側に偽物の賢者の遺産を捕ませたりと、スネークとオセロットはCIA側の人間として間接的に協力関係にありました。
また、スネークはオセロットに兵士としての素質を感じているのか、後輩と遊ぶ部活のOBのような面倒見の良さを覗かせます。オセロットに戦闘のアドバイスを行い、本気で自分を殺しにくるオセロットをかわして逆にオセロットの命を助け、オセロットは次第にスネークへの憧れが隠せなくなっていきます。そのため、結果的にではありますがADAMとCIAの連携は効果的となっていました。
KGBもう1人のスパイであるEVAは約束の場所でスネークの前に登場し、情報提供を含め任務へ協力します。しかしこのEVAは本物のEVAではなく、EVAに成り済ました中国側のスパイでした。EVAとしてKGBのスパイのように振る舞うことで、シャゴホッドのデータと賢者の遺産を手に入れたかに見えましたが、オセロットの手で偽物を中国に持ち帰ってしまいました。
スネークはオセロットが本当は何をしていたのか全く知らず、EVAが本物ではないことは任務終了後に知ります。
スネークとEVAとの間に生まれた愛までも嘘かと思いきや、EVAがスネークを本当に思っていることは後のシリーズでの行動を通し明らかにされます。ヴォルギンの全身爆発を花火代わりにし、抱きしめ合っていた2人の愛だけは本物でした。
ではKGBにいるはずの本物のEVAはどこに行ったのか、誰だったのか、これは完全に謎であり、考察のしがいがある議題となっています。そもそも、なぜ中国側はCIAがKGBのEVAという協力者と連携を図ろうとしているか知り得たのか、CIAの情報が賢者達のネットワークを通じて中国側の賢者達に漏れていたのかもしれません。
史実に基づくフィクション
第二次世界大戦終結後、世界は東西に二分された。 冷戦と呼ばれる時代の幕開けである。
スネークの声で、時代背景が説明されるナレーションから始まるこの物語。
メタルギアソリッド1、2は発売当時の少し未来を描いた話でしたが、メタルギア3は実際に起こった歴史の中で有り得たかもしれない話を描いています。
1962年に実際に起きた事件“キューバ危機”において、実は僕たちが知っている表の歴史はゼロ少佐の言う通りカバーストーリーであり、ソコロフという天才科学者が取引材料にされて危機が回避されていたのかもしれません。
当時の世界の軍事情勢、政治を踏まえて、フィクションを織交ぜる物語の作り方であるため、説得力があり、冷戦の緊迫状況が真に伝わります。
ザ・ボスが言う「任務は人が下しているものはない。時代よ。」というセリフは、今作の時代背景を明示しており、今作のテーマである「SCENE(時代)」そのものです。
時代の流れで敵も味方も変わる、その中で軍人は弄ばれる。
時間に関与しない絶対敵はおらず、相対的でしかない。
科学者が戦争に使われ、兵器開発や宇宙開発、ザ・ボスでさえも時の政治に使われています。スネークは終始、ザ・ボスの言葉を借りると”時代”に翻弄され続け、常に誰かの手のひらの上で転がされます。
賢者達、賢人会議というアメリカ、ソ連、中国の有力者達が母体となり、世界を裏で牛耳る存在の設定も相まって、巨大なシステムの中で見えない敵と戦わされている感覚になります。
この賢者達のように、メタルギアシリーズの世界観を理解するためには、細かい設定への理解が肝になります。
メタルギア3では、シリーズの根底となる設定や登場人物の発端を知ることができるため、メタルギアシリーズのストーリー理解のために今作は欠かせません。
後の愛国者達である賢者達、二足歩行兵器としてのメタルギアの構想、シリーズを通じて複雑な動きをするオセロットの萌芽。余談ですが、まだ若いオセロットはメタルギア3ではシリーズ唯一といって良いほど隙を見せており、本当のオセロットを垣間見ることができます。
プレーヤーとネイキッド・スネーク
プレーヤーとゲームの関係性、スネークと任務の関係性が対照であり、プレーヤーがゲーム内で起こる出来事の傍観者ではなく、プレーヤーとスネークが一体となる仕組みが常にメタルギアシリーズでは演出されています。
基本的にどのメタルギアシリーズでも主人公スネークは何も知らず、何も分からぬままミッションを遂行するのですが、今作のネイキッド・スネークも例に漏れず、何が本当に起こっているのかは知らされず、任務だけを信じて行動します。
敵側として存在するGRUにおいて、本当の敵はヴォルギンだけです。オセロットはトリプルクロス、EVAは中国側のスパイ、ボスはCIA側のスパイと、全員がGRUのふりをしてヴォルギンとスネークを騙しています。
スパイ達は自らの目的である賢者の遺産奪還のために、手段としてスネークの活躍が必要であり、スネークとプレーヤーに気づかれぬようにスネークを成功に導きます。
スネーク VS GRUの関係性で、スネーク、つまりプレーヤーは自らの意思ではなく、周囲の人間により動かされていおり、自力で任務をクリアしたのではなくクリアさせられていたのです。
ザ・ボスがスネークを遥かに上回る戦闘力であることは、作中で何度も強調されていました。ラスボスであるザ・ボスはプレーヤーが倒したのではなく、倒されてあげた、だけです。
任務を与える者と、周囲が作った枠の中で戦うスネークの関係性は、ゲーム製作者と、ゲーム製作者の作った仕組みの中で遊ぶプレーヤーの関係と、綺麗につながっています。
作中の無線では、ザ・ボスから直々に「ゲーマーとしてのカンを信じなさい」と言われており、ゲームとプレーヤーの関係をメタ的に見る視点はシリーズのお馴染みです。
メタルギア2の雷電や、メタルギア5のファントムしかり、プレーヤーとゲームの関係が現実に溶け合っています。
ザ・ボスは倒されてあげただけ。
スパイだらけの作られた空間に潜入していただけ。
本当の目的は賢者の遺産の争奪戦でありその争いに使われただけ。
何も知らずに任務を遂行したスネークとプレーヤーは、全てを知った後にBIGBOSSの称号を授与されながら同じ感情を抱いていたのではないでしょうか。
スネークとプレーヤーの一体化は、スネークが直面する任務への苦悩を通じ、作られた物語を進む(進めさせられる)ゲームというメディアの意義を考えることにもつながります。
豊富な小ネタ
無線による軽快なトーク
感動するストーリーが主でありながら、少し脇道に逸れると笑い要素が詰め込まれておりネタの宝庫です。
本作の主人公であるスネークは、後の主人公であるソリッド・スネークと異なり、人為的な加工が施されていない純粋な人間です。まだ武力に走り復讐に燃える前のBIGBOSSでもあるためか、粋なジョークを飛ばしたり、感情的になったりと、人間味を感じる描写が目立ちます。
メタルギア4以後からはシリアスな場面が多いので、作中での雰囲気が重くなりすぎず、思わず笑ってしまう場面がある本作はメタルギアシリーズの中でも貴重かもしれません。各キャラクターの個性が立っており、数歩動いてすぐに全キャラに無線し、会話の変化を楽しむことができます。
スネークがただ聞き役に回るだけでなく、あらゆる動植物の解説を受けて「で、味は?」と聞いたりと、スネークと他キャラとの掛け合いは何度でも聞き返したくなるくらい作り込まれており、会話の種類も豊富です。
物語の中盤、ライコフという前作メタルギアソリッド2の主人公、雷電と顔がそっくりなネタキャラが登場し、スネークは彼に変装して物語を進めます。ゼロ少佐は無線で「奴の顔を思い出すと腹が立つんだ。君もそうだろう?」と怒りを露わにしており、これは前作で雷電が不評だったことへの怒りかと思われます。
無線でゼロ少佐やパラメディック、シギント、EVAとの会話を深め互いを知れば知るほど、彼ら彼女らとスネークに距離が生まれ、敵対関係にまで陥ることが悲しくなっていまいます。
ゲームとしての面白さ
また、メタルギアシリーズを通じて本作唯一の特徴は、食料の現地調達です。ジャングルを探し周り、食べられそうな動植物を捕獲する遊びは良い意味でメタルギアらしくない要素であり、黄金伝説顔負けのサバイバル生活でした。ピチピチと暴れる大きな魚にそのまま噛みつき、新鮮なうちに食事をとるスネークの姿は衝撃的です。スネークが生きた魚や生きた蛇にかぶりつく姿は、小さな画面で荒い映像に流れるのみですが強烈な印象を残してくれました。伝説の生物、ツチノコを捕まえた後は、パラメディックやゼロ少佐から任務を放り出して早く帰国するよう命令が下ります(当のスネークは呆れ顔)。
動植物はスネークが食べるだけでなく、毒キノコを道端に置き兵士に食べさせたり、生きた蛇を兵士に投げつけるなど潜入の幅も広がりました。独房に閉じ込められた際は、ジョニーに食料を提供することで彼との隠れムービーが発生し会話が弾みます。
スネーク自身もワニキャップを被りワニに擬態でき、ジャングルを舞台に潜入をするにあたり自然との共生が鍵となります。ジャングルの中でダンボール箱を被っても速攻で兵士に見破られてしまうため、場に合わせた服装でカムフラージュ率を高め、自然に溶け込む努力は不可欠です。にも関わらず、カムフラージュへの配慮の真逆をいくタキシードが戦闘服として用意されています。
本編以外にもギャグ要素満載の特典が詰め込まれています。サルゲッチュとメタルギアのコラボである猿蛇合戦が、ミニゲームとして収録されており、スネークからピポサルを捕まえた瞬間に「ゲッチュ」と言うのはファン必見です。PS2版のみでしか遊ぶことができませんが(2024年現在)、ぜひ別のプラットフォームにもリマスターして欲しいです。
また、PS2用に発売された完全版であるMGS3 サブシスタンスではシークレットシアターという、メタルギア公式によるパロディームービーが16本収録されていました。真剣な本編を逆手にとったギャグムービーであり、メタルギア制作チームの遊び心を感じました。
今作でのボス敵であるコブラ部隊は各々が感情をコードネームにしていました。
「無上の歓喜」ザ・ジョイことザ・ボス、「至高の痛み」ザ・ペイン、「至純の恐怖」ザ・フィアー、「真実の終焉」ジ・エンド、「無限の憤怒」ザ・フューリー、「深淵なる悲哀」ザ・ソロー。
真面目な本編の中に散りばめられた遊び心により、スネークとプレーヤーは、メタルギア3をプレーしながら1人でコブラ部隊全員の感情を味わえているのかもしれません。
ザ・ボスは何を伝えたかったのか
ザ・ボスは、真の英雄です。誰もが陶酔する絶対正義として存在し、少しの欠陥も許されない故に、製作者にとっても描き方が難しいキャラクターだったのではないかと思います
戦争のため、宇宙開発のため、国のため、そして任務のために、名誉、仲間、自分の肉体や命を捧げ続けてきたザ・ボスは、あのビッグボスの師として真の英雄です。
そんなザ・ボスの口から紡がれる一言一言は重く、スネークとプレーヤーの人生観を揺るがす程の影響力を持っています。しかし、ザ・ボスの言葉は分かりそうで分からない言葉ばかりです。
「世界を1つにする」
「忠を尽くす」
そもそも、ザ・ボスは国から悲惨な扱いを受け続け、裏切られているのにも関わらず、なぜ国に尽くし続けた愛国者だったのでしょうか。国家からの命令を遂行すること以外にザ・ボスの意思を実現する方法はなかったのか、それとも冷戦下の時代は国家により個人の意思が簡単に揉み消されてしまうのか、考えてしまいます。
更にザ・ボスはスネークの敵として登場することもあり、最後まで彼女の真意は知り得ません。ザ・ボスの言葉の意味も分からぬまま、スネークとプレーヤーは個人としての意思とは別に、見えない誰かの目論見通りにザ・ボスを殺してしまいます。
ザ・ボスへ銃を構えた直後、突然ムービーが切り替わり、プレーヤーは発砲するためのボタン操作を求められます。つまり引き金を引かなければいけないのはプレーヤーであり、このボタンを押させる演出によりスネークとプレーヤーは完全な共犯関係となります。
ザ・ボス最後の任務である、自己犠牲という務めをザ・ボスはどんな気持ちで引き受けたのでしょうか。
ザ・ボスの言葉の意味は何だったのでしょうか。
どちらかが死に、どちらかが生きる。
軍人として任務を果たしたザ・ボスが残す、帰還報告(デブリーフィング)をきっかけに、ザ・ボスの意思を追うスネークとプレーヤーによるメタルギアシリーズという物語が始まっていくのです。
メタルギアシリーズの始まりであるメタルギアソリッド3は、発売から20年以上たった今でも次のスネークを生み続けていることでしょう。