メタルギアソリッド(MGS1)の紹介、感想と考察

作品の感想
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メタルギアソリッドは、1998年にPlayStation用のソフトとして発売されました。メタルギアシリーズの第3作目です。

MSX2用に発売されたメタルギア、メタルギア2とは異なり、タイトルに「ソリッド」の字が含まれています。MSX2版のメタルギアは矛盾点もあり、一種のパラレルワールドとしての扱いもあることを考えると、実質的にはこのMGS1がメタルギアシリーズの1作目とも捉えられます。

物語のテーマは「GENE(遺伝子)」です。

今の時代に見返すとドット絵のポリゴンや表情がついていないキャラクターが古めかしいですが、恐らく当時の映像演出としては最高峰だったのかと思います。

ストーリーはやはり素晴らしく、米国の『フォーチュン』誌にて「20世紀最高のシナリオ」と称されたそうです。

主人公は既に伝説の英雄と称されているソリッド・スネーク(33歳)です。ただし、今作のストーリーを理解するためにMSX2用メタルギア、メタルギア2をプレーする必要性は薄く、前提知識が一切不要です。初代メタルギア、メタルギア2のストーリーはこちらで簡単にまとめました。

1998年に発売されて以降、何度もリマスター版が発売され、PS2、PS3、PS4、PS5、Xbox、Nintendo Switchと様々なプラットフォームで遊ぶことができます。ただ、MGS1は後述するように初代Playstationだからこそ通じる仕掛けがゲーム内で何度か登場するため、他のプラットフォームでは発売当時の感動は味わえないかもしれません。

2004年にはMGS2の操作方法や映像を踏襲し、ゲームキューブ用ソフトとしてMGS1がリメイクされました。「メタルギアソリッド ザ・ツインスネークス」というタイトルで、あまり聞き馴染みがないかもしれません。このソフトは英語音声のみであり、コアファン以外にはハードルが高かったと思われます。ゲームキューブ以外で展開されておらず、今では遊ぶことも難しいです。

メタルギアソリッド ザ・ツインスネークスは操作性やグラフィックは初代MGS1とは比較にならないほど素晴らしいものの、ムービーの内容も若干変わっており、「そこは原作通りで良かったのでは…」と個人的には思ってしまいました。

とは言え、MGS1は何度もリマスター・リメイクされているのが納得の完成度であり、メタルギアリリーズの始まりとして素晴らしい作品です。

操作、遊び面の評価

序章がなく、いきなり戦場に放り出されるのはメタルギアシリーズ全体を通して見ると新鮮です。今作がメタルギアシリーズの遊びの原型となっており、後のタイトルで登場する仕掛け、アイテム、イベントが次々登場します。

大型兵器のメタルギアを生身のスネークが破壊し、最後は大ボスとの肉弾戦へ臨む展開はシリーズの鉄板です。メリルと2人で行動する場面は、MGS2ではE.E.、MGS3ではEVAとの行動と似ていますし、崩れる建物から追手を振り解くカーチェイスはMGS3、MGS4にもありました。

スネークが捕まってしまい尋問を受ける展開も、MGS2とMGS3に登場しました。牢獄からの脱走もお馴染みであり、牢獄の看守はジョニーという男兵士です。実はMGS1に登場する看守のジョニーは、MGS3で登場する看守のジョニーの孫です。

主観視点で銃が扱えない、ローリングやエルードができない、と操作の幅が狭く、また麻酔銃がないためボスのスタミナゲージがなく、ノーキルを達成できない等、後のメタルギアシリーズ作品を知っていると物足りない部分はありますが、ステルスアクションゲームの元祖として今でも臨場感溢れる潜入を楽しめます。

また、今作はBGMがおどろおどろしく、独特の怖さがあります。どのエリアも薄暗く、ドット絵の見通しの悪さも相まってある種の寂しさを感じます。さらに所々にホラー要素の演出があり、なぜかエレベーターが動いた、ミラーが実は死亡しており偽物と会話していた、なぜか核発射が作動した、等々MGSVとはまた違う恐怖感があります。

一方で笑い要素も多く、今作のソリッド・スネークは饒舌であり、不気味なBGMを背景に小粋なジョークを飛ばします。

メタルギアリリーズのお家芸である、メタ的なギャグ要素は今作から健在です。メリルの無線周波数を探るためのヒントとして、ベイカー社長からは「パッケージの裏を見てみろ」とヒントを与えられます。このパッケージとはソフトのパッケージであり、フィジカルなソフトからデジタルへシフトしている近年はお目にかかれないメタ発言です。

大人気ボス敵であるサイコ・マンティスと対峙した際、マンティスはプレーヤーにコントローラーを床に置かせ、念動力で振動させます。その他にも、Playstationのメモリーカード内のプレーデータを読み込まれ趣味を言い当てられたり、「ブラックアウト」の掛け声で右上に「ヒデオ」と書かれた真っ黒の画面が表示されたりと、ネタの宝庫です。

僕がプレーした時は、急にハードの電源が切れたか、ブラウン管のテレビが故障したのか、と小島監督の名前とかけているギャグだとも気づかずにパニックになった思い出があります。

現在のダウンロード版では当時ほどの感動がないかもしれませんが、純粋にゲームとしての面白さは発売から25年以上経った今でも現役だと思います。

なお、Playstation版では容量の関係からゲームの途中でディスクを交換する必要があります。

MGS1 ストーリー解説

以下ではストーリー全体のあらすじを書きます。本記事でのスネークは、ソリッド・スネークを指します。

  • アラスカ沖シャドーモセス島にある核廃棄場が、ハイテク特殊部隊FOX HOUNDの一部隊に占拠され、アメリカ政府へ核攻撃の脅迫をしている。要求は「20世紀最強の兵士」ビッグボスの遺体で、応じなければ核を発射すると告げられる。
  • FOX HOUNDの元隊員で核脅威への危機から世界を2度を救った英雄、ソリッド・スネークは、アメリカ大統領からの極秘任務として単独でシャドーモセス島へ潜入することになる。
  • スネークの任務は国防省所属のDARPA(ダーパ)局長と軍需企業アームズテック社のベイカー社長救出、そして核発射の阻止である。無線サポートは既に引退していた元司令官キャンベル大佐、メディカルスタッフのナオミと新人技術者メイ・リン、軍事アナリストのナスターシャ・ロマネンコ、元FOX HOUNDの教官マクドネル・ミラーが担当する。
  • スネークは潜入開始前にナオミが開発した最新技術である「ナノマシン」を体内に注射しており、無線機を用いずとも通信が可能で、体内環境の制御も行われている。
  • スネークはまずDARPA(ダーパ)局長と接触し、二足歩行の核搭載戦車「メタルギア・REX」がアメリカ政府とアームズテック社で極秘に開発されていたことを知る。核発射のためのコードはDARPA局長とベイカー社長が知っているが、DARPA局長の持つコードは敵に知られてしまったという。しかしPALキーをセットすることで起爆システムの解除ができるらしい。
  • DARPA局長は説明を終えると、突然の心臓発作で死亡してしまう。
  • スネークは新米女性兵士であり、キャンベル大佐の姪でもあるメリルと出会い、一時共闘し敵兵の包囲を抜ける。
  • スネークはベイカー社長に接近しようとするも、テロリストの1人リボルバー・オセロットに阻まれる。そこに謎のサイボーグ忍者が介入し、混乱の中オセロットは右腕を切断され逃走。
  • ベイカー社長を救出するが、拷問により核発射コードを喋ってしまったという。核発射を阻止する唯一の方法となったPALキーは、メリルに渡していた。しかし、ベイカー社長もDARPA(ダーパ)局長と同じように心臓発作で死んでしまう。
  • スネークはメリルと無線を使い連携し、シャドーモセス島はただの核廃棄場ではなくメタルギア開発のための基地であると知る。
  • メリルの手引きでスネークはメタルギアの設計者であるオタコンと出会い、彼からメタルギア・REXの存在とその危険性を聞き出す。オタコンは欺かれて開発に協力させられており、罪を償うためスネークのサポートを申し出る。
  • サイボーグ忍者の正体が、かつて戦友であり自分が倒したはずのグレイ・フォックスであることを知る。彼は遺伝子実験の実験台として生かされ、サイボーグ人間となっていた。既に意識はなく、スネークと戦うことだけが目的で動いている。
  • スネークはメリルと合流。彼女がベイカーから託されたPALキーを受け取り、共に核発射を阻止するために行動する。
  • 超能力者サイコ・マンティスを倒した後、スナイパー・ウルフにメリルが狙撃される。スネークはメリルを救おうとするも失敗し、メリルは人質にとられスネーク自身も捕らえられてしまう。
  • スネークは拘束され、目を覚ますと本事件の首謀者リキッド・スネークが目の前にいた。初めて彼を見て、スネークと瓜二つであることを知る。
  • スネークが監禁された独房には、数時間前に牢で死んだはずのDARPA局長の遺体が置かれていた。なぜか遺体の腐敗が進んでおり、死体から血液が抜き取られていた。
  • スネークは何度も拷問を受けるが看守の目を盗み脱走し、テロリストと化したFOX HOUNDの隊員達を次々と倒しながらメタルギアの格納庫を目指す。
  • 突然キャンベル大佐から無線が入り、ナオミがスパイ容疑で連行されたと知る。
  • 格納庫で、スネークはリキッドとオセロットが核発射コードを入力し発射の準備をしているのを目撃する。リキッドはオセロットの協力でロシアのゴルルコビッチ大佐と合流し、世界を敵に回すつもりだという。そしてビッグボスの意思を継ぎ、アウター・ヘブンの再建を表明する。
  • その後隙を見てナオミがスネークに無線をかけ、真実を明かす。彼女の正体はフォックスの義妹であり、両親がいない彼女にとって兄は宝であったためフォックスを廃人にしたスネークを恨んでいた。だが、このミッションで本当のスネークを知り、憎悪は消えていた。そして潜入前に、ナノマシンと共に「FOXDIE」という近くにいる特定の人間が心臓発作を起こすウイルスを注射していた、と告げる。それはナオミの意志ではない、と話を続けるがナオミ拘束されてしまう。
  • スネークは核発射を阻止するためPALキーを指定の場所へセットしたが、なぜか核発射準備が完了してしまう。実は全てリキッドの計画であり、マクドネル・ミラーとして通信していた人物の正体がリキッドであった。オセロットが本物のDARPA局長を拷問で死なせてしまい核発射コードが手に入らなかったため、部下のデコイ・オクトパスを局長へと変装させ、PALキーで核発射が停止されるとスネークを欺き誘導していた。
  • スネークはリキッドを発見し、銃を構えて向かい合う。リキッドは「兄弟に銃を向けるのか」と言い、真実を告げる。スネークに与えられた任務である、核発射の阻止、人質の救出は全て偽りであり、国防総省は「FOXDIE」を基地内に持ち込み関係者を全員暗殺し、メタルギアを無傷で回収するためにウイルスの運び屋としてスネークを利用していた。
  • ナオミは国防総省の言いなりにならず、作戦直前に「FOXDIE」を密かに改変していたため現在拘束された。リキッド達は「FOXDIE」の血清をホワイトハウスに追加で要求しているという。
  • リキッドが乗るメタルギアREXの破壊を試みるスネーク。フォックスが加勢に来るもリキッドに殺される。フォックスは死の直前、ナオミの両親を殺したのは自分であり後ろめたさでナオミを保護したと告げる。フォックスがメタルギアREXを弱体化させてくれたことで、スネークはメタルギアを破壊する。
  • メタルギアの爆発でスネークは気を失う。目を覚ますとリキッドがおり、今回のテロの目的と、その理由を語る。リキッドとスネークは「恐るべき子供達」計画で生み出されたビッグボスのクローンであり、スネークとリキッドは同じ遺伝子であると明かす。そして劣性遺伝子を持つ自分が優性遺伝子を持つスネークを憎んでいると語る。リキッドはビッグボスの遺志を継ぎビッグボスを超えるため、武力によりアウター・ヘブンを再建したい。また、ビッグボスの遺伝子を受け継いだ人間は遺伝子の問題により早期に死を迎えるため、ビッグボスの遺体を調べる必要があるという。
  • スネークとリキッドは一対一の殴り合いで勝負をつけ、スネークが勝利する。大佐が無線連絡で、全てを極秘にしたい政府は基地ごと空爆して証拠の隠滅を図るつもりだと告げる。政府はスネーク、リキッドの存在も抹消したい。
  • スネークはメリルを救出し脱出を試みる。リキッドが追いかけてきて、脱出の直前でスネークを追い詰めるが、リキッドは「FOXDIE」により死亡する。
  • 大統領が空爆の中止命令を出したため、スネーク達は助かる。新型核弾頭の開発も空爆も、すべては国防省長官の独断で、長官は逮捕されたという。大佐は、スネークを騙して潜入させたことを謝る。大佐もメリルを人質に取られ苦しい立場であった。
  • スネークとメリルはアメリカには戻らず、2人で新しい人生への歩みを進めることになった。
  • 物語の最後、オセロットが大統領の元で動いていたスパイであり、大統領もビッグボスのクローンであることを示唆する。

メタルギアのらしさがふんだんに詰め込まれた今作。ストーリーはやや複雑ですがシリーズを通して見ると平易な部類に入るかと思います。

核発射を停止させるためだと思っていたPALキーをセットした瞬間、「発射準備完了しました」と流れる音声はスネークとプレーヤーを狼狽させます。最初からリキッドに操られており、政府からも利用されていたと気づいた時には一本取られたと思うと同時に、何かがおかしかった政府の意図、対するリキッドの思惑が繋がる感覚がありました。

メタルギアシリーズの物語の構造として以下のような流れが鉄板であり、今作では既にこの構造が完成しています。

  • 主人公スネークが何も分からない状態で任務に臨む
  • 任務中に真実に気づき始める
  • メタルギア破壊
  • 最後にボス敵からのネタバラシ
  • ラスボスとのタイマン勝負
  • オセロットの無線でさらなる真実が明らかに

さらに今作は、「任務を知らされていない」レベルではなく、そもそもスネークが自分が誰なのか知らない状態から始まります。物語の終盤に、スネークは「恐るべき子供達計画」で作られた、伝説の兵士ビッグボスのクローン人間であり、テロの首謀者であるリキッドはスネークと一緒に作られた双子だと判明します。

戦争のために作られた存在であるため遺伝子レベルでは死にかけており、寿命が短いことも示唆されます。

謎に謎が深まり物語が進みますが、謎への答えを多く提供してエンディングを迎えるため、モヤモヤ感はありません。

反戦、反核

メタルギアシリーズは各作品ごとに個別のテーマが設定されていますが、シリーズに通底するテーマとして「反戦、反核」があります。

MGS1の舞台であるシャドーモセス島は核の廃棄場であり、処分するにもできず無造作に並べられている核からは、格爆弾が誰でも手に入る時代になってしまった恐怖を突きつけます。核抑止論はMGSPWだけでなくMGS1から登場し、核が一般的になった時代の抑止力のために、メタルギアREXという怪物が生まれました。

メタルギアシリーズの特徴の1つは、SF的な世界観で現実世界よりもテクノロジーが進んでいる点です。体内で作動するナノマシンや敵兵の配置が分かるソリトンレーダー、二足歩行兵器のメタルギア、改造人間と技術力には胸が踊りますが、残念なことに全ての技術が戦争のために利用されています。

メタルギアREXの開発者であるオタコン(ハル・エメリッヒ博士)は、兵器を開発する科学者としての苦悩を語ります。 オタコンは、「科学は人を幸せにするためにあるんじゃないのか?」「ぼくはただ、人がロボットに乗る夢を実現したかっただけなんだ……」と語り、何も知らされず利用されていたオタコンではありますが罪の意識を感じています。

MGS3ではソコロフも同様の悩みがあり、科学や科学者は戦争に利用され、意図せずに殺戮兵器を作らされる科学者の苦悩が描かれています。

戦争に利用されるのは味方側だけでなく、テロリストと括られる敵側も同様です。

リキッドはクローン人間として出生した瞬間から兵器と見なされ、スナイパー・ウルフは戦場で生まれ戦場で死ぬしかない運命でした。この世に誕生した時から戦争に巻き込まれ、傭兵になるしかなかった彼ら・彼女らは、人を使い捨てる戦争の悲劇を象徴しています。

伝説の英雄?

ソリッド・スネークは、物語が始まった途端から数々の女性キャラクターから「伝説の英雄」と呼ばれ、「あの伝説の英雄と会話ができるなんて嬉しい」と言われるスター性を発揮します。他の作品であれば気分良く「伝説の英雄」としてヒーローになれそうですが、MGS1では「伝説の英雄」が戦争のために人為的に作られたフィクションとされます。

スネークは伝説の英雄と呼ばれることを嫌います「誰かのために戦ったことは一度もない。戦場で死をかいくぐっている時だけだ、生きていることを実感するのは」と語るように、決して大義を持っているわけではなく、命令に従い戦場で生き延びているだけのようにも見えます。

そもそもスネークは1人で任務を完遂などしておらず、リキッドが裏で操りスネークを誘導していました。スネークは任務を遂行したのではなく、計画内の1つの部品として任務を遂行させられていただけです。

作中では伝説の英雄と称されながら、伝説の英雄には似つかわしくないぞんざいな扱いを受けているのも皮肉です。

スネークは「FOXDIE」という近くにいる特定の人間が心臓発作を起こす暗殺ウイルスを注射された状態で任務に派遣されており、「FOXDIE」によりスネーク本人も殺される予定でした(ナオミが改変しスネークには未発症)。

真実は何も告げられず嘘の任務のみを伝えられ、ウイルスを運ぶだけの捨て駒として政府に利用されている様子からは、「伝説の英雄」という言葉が独り歩きしているように感じます。ジムハウスマン長官からは「旧態政府の亡霊達」とまで言われます。

伝説の英雄は戦争の表象に過ぎず、スネークは兵器として生まれたクローン人間であり、出生や呼び名までと全てが戦争のために作られた存在でした。しかし、スネークの盟友であり、サイボーグ人間にされてしまったフォックスは、メタルギアREXからスネークを助けこう言いました。

スネーク!俺達は政府や誰かの道具じゃない!戦うことでしか… 自分を表現できなかったが… いつも自分の意志で戦ってきた スネーク… さらばだ

この自分の意志、自由意志が本作もう1つのテーマとなります。

遺伝子と意志

スネークとリキッドは、ビッグボスのクローン人間であり、遺伝子に戦闘本能が刻まれているような旨をリキッドは言います。

リキッドはスネークに「殺戮を楽しんでいるんだよ、貴様は」と言い、スネークは「ちがう!」と否定するものの、普段は冷静なスネークが取り乱している様子からも核心に迫っているようにも思えます。

スネークと異なり自らの出生の秘密を知っていたリキッドは、「遺伝子に刻まれている」という大義名分を掲げ、戦士が生かされる場所であるアウターヘブンの再建を宣言しています。ビッグボスの意思を実現し、ビッグボスを越えようとするリキッドは遺伝子がつくる運命への抗いを見せますが、やはり遺伝子に縛られています

では、自らの出生や遺伝子と、全てを知った上でスネークはどうするのか。超能力者であるサイコマンティスのスネーク評は興味深く、「(スネークには)未来も過去もない、この瞬間を生きている」と言われます。そんなスネークは、自らの意思としてメリルを守り生き延びる選択をします。

物語の最終盤でナオミがスネークへ語るメッセージは、遺伝子を巡る問いへの解を提供します。

DNA情報はあくまでも力や運命を秘めているということしか言えないわ。

運命に縛られてはいけない。遺伝子に支配されてはいけない。生き方を選ぶのは私達なのよ。(中略)

重要なのはあなたが選ぶ事。そして生きる事。

今作はメタルギアシリーズでは珍しい、スネークとヒロイン(メリル)との恋愛要素が盛り込まれています。ナオミの言葉通り「遺伝子の存在意義は子孫を通じて願いを未来に託すこと」であるならば、未来へ繋げるために、愛し合い語り継いでいく選択をしたスネークとメリルは、遺伝子を研究し続けてきたナオミの思いを体現しています。

スネークは最後、メリルに向かって「人の為に生きるのも良いかもしれない」と言い、「さあ!人生を楽しもう!」と前向きなセリフでエンディングを迎えます。

確かに、スネークには戦闘を楽しむ遺伝子や、戦闘に最適化された遺伝子が刻まれているかもしれません。リキッドの生き方の方が、得意を活かしているのかもしれません。ただ、作中で常に苦しそうで悲壮感のあるリキッドと対照的に、メリルと共に未来を見据えるスネークはかつでないほどに生き生きとしていました。

現実世界でもMBTI診断が流行し、就職活動等では自分らしさや適職を導くための自己分析が重用されますが、仮に遺伝子に向き不向きが刻まれていたとしても可能性の域を出ず、選択しながら生きることが何より重要なのだと思わされます。

ちなみに、リキッドはソリッド・スネークが優性遺伝子(強い遺伝子)、リキッドが劣勢遺伝子を集約されたと思っていますが、実際には優性遺伝子を集約されたのはリキッドであったことも判明します。
※ここでの優勢遺伝子、劣勢遺伝子は本来の生物学的な意味とは異なるようです。

スネークの戦いは続く

MGS1は発売日ではシリーズ初期に該当しますが、メタルギアサーガの時系列では中盤です。そのため、他のタイトルをプレーしてから再びMGS1をプレーすると、また別の思いが湧いてきます。

MGS3をプレーした後、シギントがDARPA局長として変わり果てた姿になったのを見るのは辛いものがあります。

MGSVでは共闘していたミラーとオセロットが敵対し、ミラーはオセロット側に殺されています。リキッドが子供の頃、イーライとしてダイヤモンド・ドッグズに保護されていましたが、MGS1でリキッドはどんな気持ちでミラーに変装したのかと思いました。

このように、後に発売されるタイトルがMGS1へ新たな解釈を与え、さらに面白くしてくれます。

今作単体で見ると、メタルギアシリーズの中でも最もポジティブに終わる作品です。

しかし、メタルギアシリーズが続いていることからも明らかなように、スネークの戦いはまだまだ続いてしまいます。

シリーズ恒例の、オセロットの最後の無線が新しい真実を告げ、MGS2へとつながります。オセロットが大統領のスパイであった以上、今回の事件を巡り、キャンベルが告げた「国防省長官の独断」がどこまで本当なのか怪しいものです。

そして、完全なクローンは現米国大統領だと発覚する結末は、プレーヤーを惹きつけ、次回作が作られるのも納得の完成度でしょう。

重いテーマにも目を背けず、メッセージ性がありながら明るさもあり、難しい問いに対しても本作なりの解を示すMGS1は間違いなく「20世紀最高のシナリオ」だと思います。

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